『素顔のままで』第19弾


去年の春、初めて三次に行った時、私はまなちゃんが看護学校に行っいる間に一人でロケハンをしていたのだが、そのロケハンでの記憶が薄れかけてきたこの時期に、やっと撮影が実現できた。
とは言うものの、今回も天気予報は雨であり、その日になるまでどんな撮影になるか分からない状態であったが、またまた朝になると晴れていたのだから、どこまでこのツキは続くのであろうか。

そのロケハンというのは、三次から西へ行くと無人駅が多い三江線なるローカル線があるのを発見して、単線の線路に沿って細い道を走り、トンネルや雰囲気のある場所を見つけてカーナビにマーキングしながら、テスト撮影をしておいたのである。
そのルートを辿っていくうちに、どんどん一年前の記憶が蘇ってきた。

それに加えて、今回は今までと違ってKeikoさんによるプロのメイクが施されたのだ。まなちゃんをイメージして揃えてくれていた、シャネルの赤いアイシャドウを実際にまなちゃんに使えるということだった。
撮影前夜も、メイクブラシの話など色々していたのだが、実際にちょっとメイクしてあげてよ。
ということになった。
しかし、一旦やりだすとちょっとやそっとで終わらないものである。

その赤いアイシャドウに加えて、植え込みまつげも目尻にかけて使うことにしたが、元々私はまなちゃんのまつげには意思があるようだと感じていたし、まつげで表情が出せるモデルだと思っていた。
普段でも長いまつげで、あのメーテルとイメージをダブらせることがあったが、今回はまさにそのものと言った感じである。そう言えば銀河鉄道999も単線だったよなぁ。

さて、撮影に出発したのが10時半、晴れたり曇ったりという天気であったが、これがまたいいのだ。晴れれば逆光、順光となる向きで撮りたければ、ちょっと待てば薄曇りとなってくれる。
ウグイスの声を聞き、獲物をくわえたキツネまで飛び出すという自然に囲まれて、気持ちよく撮影が進んだが、最近のまなちゃんとの撮影はハイキングをしているようで、日頃都会の雑踏で仕事をしている私としては、まなちゃんの顔を見て、こんな気持ちのいい場所で撮影が出来ることが、なによりにも増してリフレッシュできるのである。
こんな感じで順調に撮影が進み、2時を過ぎた頃から西の空から雷鳴が聞こえだしたのだ。
しかし、ラストシーンはその真っ暗になった西の空と、今回のメイクのコントラストが映えたのである。
撮影が終わり、ちょっと遅いお昼を食べている頃、外は集中豪雨となっていた。

今回、こういうシチューションを選んだわけだが、ただ闇雲に撮っていたわけではない。
「ローカル線の線路をモチーフに撮ってみました」じゃ、余りにも芸が無いじゃないか。
一見、ロケーションとアンバランスとも思えるメイクもあって、それも考慮した撮り方をしたつもりである。

細かい、ストーリーの設定などは、いつもの事ながらまなちゃんには伝えない。
私の撮影から、その空気を敏感に嗅ぎ取ってくれるまなちゃんであり、阿吽の呼吸、ツーと言えばカーである。
それは、私の決めたロケーションからでもあるだろうし、シャッターを切るリズム、時々かける声や動きから伝わるのだろうが、それらすべてを含んだ空気が私とまなちゃんの間にあるのは、私も感じる。もちろん、私からのアクションだけでなく、まなちゃんが発する呼吸も私は見逃さないようにしている。
だから、私はワンカットでは絶対に終わらせないのだ。そんなことしてたら湧き上がる空気を感じられないのである。
これは、まなちゃんとの初対面の撮影の時に感じたものであり、私にとってこの子となら何かが見つけられるんじゃないか・・・ってそんな予感がしたものだ。

お互い、無駄な力が入っていないから、そういうものを感じ取れるのであって、いい撮影をすることだけを考えるカメラマンと、自分を綺麗に見せるいい表情を作ることだけで、頭がいっぱいのモデルとの間では、それは生まれないと私は思っているのだ。

そんなであるから、ずっと側にいたKeikoさんの存在を、つい忘れそうになってしまうのである。
元来、気を遣ってしまう私としては、すまないことをしたとフィルムを巻き戻している時に思うのであるが、新しいフィルムのチャージが終わると、またまなちゃんとの空気の中に入り込んでしまう。また、Keikoさんはその空気が見えているかのごとく、常にその外に居てくれるのが分かった。

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