緊張と緩和


撮影会で同じモデルを撮り続けるのも茜ちゃんで多少は経験したし、過去には沙紀ちゃんにもお世話になった。何度か会っているうちに確かに気心も知れてくるし、個性もだんだん分かってきてそのモデルに応じたアプローチも見えてきたりで面白いことには違いない。
しかし、カメラマンである以上、撮影会という枠の中で撮り続けることにどこまで意味があるか・・・と考えると、それは疑問である。

なんなんだろう・・・どこかヘンなんだよなー。特に企画モノって言うのかな？コスチューム撮影を筆頭に着せ替え人形で大の大人が遊んでいるように見えて仕方ない。
リカちゃん人形で遊ぶのは最近は小さな女の子じゃなくておっさんのようである。まさに世紀末。
何の必然性も意味もないシチュエーションであれ、気に入ったモデルであれば何でも喜んでいるのを見るにつけ、Ｔシャツと洗いざらしのジーンズであっても、それがはまっていれば私はその方が何倍も嬉しい。

しかし、何をもってはまっていると感じるかが問題なんだよな。気に入ったモデルが美しくて可愛ければ、それが客観的に見てどんなに浮いていようと、競走馬のようにまっしぐらに、突き進んでしまうんであろう。
私は、ポートレートは擬似恋愛の部分もあると思っているところがあるが、それは自分だけが好き好きダーイスキ！って思っていても、それは幻を見てるだけのこと。手を伸ばしてもスーッと逃げて行くものを追いかけているに過ぎない。だからまったくもってリアリティーが無いのだ。
憧れや、ファン意識を持って撮影している以上、本当の意味のオトコが撮るオンナは撮れないというのが、最近の私の持論である。

それから、撮影会には二通りあって、恐い写真家の先生が付いて撮影指導するような撮影会と、最近増えて来た仲間内で集まったり、主催者が撮影の素人で特に口出ししないので、参加者とモデルのざっくばらんな撮影会。
私は、ポートレートを撮り始めた当初は、前者の撮影会で指導でやって来たプロのカメラマンから、何かを盗んで帰ろうとしていた。その反面、後者のような撮影会に魅力を感じていたのである。
しかし、初期に前者でいろいろ勉強したことが、今となってはとても役立っているように思うのである。
モデルを叱り飛ばして泣かせた大御所Ｆカメラマンにも張り付いてみたし、指示をされたモデルがポッとなるような、カッコいい巨匠Ｔカメラマンもいた。それらの撮影会には、モデルに対して緊張感を与えていたと思うのである。

モデルの緊張をほぐすのがいい撮影だと思われている節があるが、撮影会においては、決してそうでは無いのでは？と思う今日この頃なのである。
「緊張と緩和」その罠にはまったモデルが見せる計算外の姿は何とも魅力的である。その緩和の部分を上手く作れるのが、いいカメラマンなのではないだろうか。
泣かされたモデルには、そのＦカメラマン先生が撮影当初に「今日は君のギャラのランクをワンステップあげてやる」って宣言していたが、涙を見せた３０分後には見違えるような深みのあるモデルに変身させられていたのである。それを見せられたのは１０年近く前のことであるが、今でもあの時の事は忘れない。単にシゴクだけではなく、まさに「緊張と緩和」の妙であった。

その時は、撮影会指導としてはどうかとも思ったが、モデルだけではなくてカメラマンも指導してくれた撮影会であったと思っている。
その撮影で私はその恐いＦカメラマンに「君に５分あげるから、自由に撮ってみなさい」と言われて、数十人のカメラマンを従えて撮影を仕切らされたのであった。その時はビビッたが、願ってもない経験をさせてもらったと思っている。

撮影会において、モデルが取り囲んだカメラマンに対して、こいつら「組みし易し」と思わせてしまったら、ダメだと思うのだ。衣装が変わっていれば、いつものパターンを繰り返していればそれで満足なんでしょ？なんて見下されてちゃいけないのだ。モデルが緩和モードで仕切りだすから、カメラマンまで腰の入っていない浮ついた撮影になってしまうのである。
だからと言って、ごちゃごちゃと無駄なポーズや表情の要求をしろと言っているのではない。もっと空気を動かすのだ。

この前のDee-Light!の撮影会でも、麻奈ちゃんはＪＵＮちゃんと「Ｊｏｅさんって恐いカメラマンだったらどうしよう」って話していたらしいが、どうやら緊張と緩和は上手く行ったようで、「Ｊｏｅさんて話しやすいですね」って言ってくれたがその裏返しは、緊張感があったということなのである。そう言えば、茜ちゃんも最初の撮影の後にそんなこと言ってくれたよなー。

まぁ、究極の個人撮影であるまなちゃんとの『素顔のままで』は緩和しっぱなしの私たちである。それはまなちゃんという相方を得て、その緩和の真っ只中で楽しませてもらっているが、撮影会カメラマンはまだまだ、緩和のぬるま湯に浸るのは早いのだ。

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