遊び心を満足させてこそホンモノ
メーカーは便利なモノを作ることで技術力を誇示し、その結果利益を得ようとする。それは大いに結構、切磋琢磨して競い合ってこそ進歩があるのだから。
しかし、それは「楽しみを奪っても良い」ということにはならない。最近、笑顔になったことをセンサーが感知して勝手にシャッターを切るカメラが現れたと耳にした。具体的にどんなものなのかを興味がないから知らないのに、勝手な判断でどうこう言いたくはないが、これっていかがなものかな?って思うのである。
先日書いた、浅井慎平カメラマンの発言でもあったように、動きの中から“この瞬間だ!”と感じた時にシャッターを切り、その右脳の反応だけが現代の写真界では腕の見せ所となってしまっている。ピントも露出もカメラ任せでいいのだから、被写界深度の設定や露出補正で多少センスは活かせるかもしれないが、シャッター・タイミングまで貴方たちは奪おうとしているのか・・・
どこかのメーカーがこんなことをしでかすと、エスカレートしてくるのが常だからこの先どうなることやら。
いい部分や個性を残しつつ進化するのが一番だと思うのだが、ポルシェなんかはこれの典型である。と言ってもポルシェの911で、あの独特のスタイルとコンセプトは40年以上変わっていない。最近のワーゲンのビートルなんかは、見た目は初代そっくりでもスタイルだけで中身は完全な最近の大衆車となっており、エンジンも911と同じ空冷の後ろだったのが水冷の前に変わって、さらにFFになっているのだからまったくの別モノと言える。分かりやすく言えばゴルフに丸っこいボディーをかぶせただけ。
ポルシェの911に戻るが、独特のサウンドを響かせていたフラット6エンジンも、21世紀に向けて空冷から快適で静かな水冷になったが、これぐらいが大きな変化である。とは言ってもそれが大きな違いであり、議論の分かれるところだ。
RRレイアウトだけにとどまらず4駆も加わったりしたが、基本は変えていない。リアのサスペンションの設計は安定性向上のために改良されたが、これもトリッキーなリアエンジンで生き延びるための手段であって、基本レイアウトを変えたら人気は急降下することだろう。もちろんそうなると911という名前も無くなり、ポルシェというメーカーは最も魅力的な存在を自ら放棄することになる。
実際、金属音が何とも言えない空冷エンジンの最終版は高値で取引されていたりする。国産車に色々乗ってきて、ベンツやボルボもいじくり倒した私だが、ここに来て妙に911が気になって仕方が無いのである。BMWのM3やアウディのS4などもチラつくのだが、居住性や前にあるトランクの狭さ、独特の整備性などを差し引いても、ハマってしまう予感がして仕方が無いのである。
実際に空冷と水冷を体感しての感想は、シビレるようは良質の音と質感のドアが迎えてくれる空冷は、その瞬間に空冷911の世界に引き込む力を秘めている。その点、水冷は左ハンドルのZのような感じでいささか萎える。まぁサッシュレス・ドアなので比較するのは可愛そうだが。カメラで言えばシャッター音のいかしたカメラはそれだけで、撮影に高揚感が生まれるが、それと近い感覚かもしれない。もちろん、空冷エンジンのメカニカルなサウンドがそれに拍車をかける。ただ、日頃の足として使うとなると、不安感と隣り合わせでいなければならないかもしれない。
それは911乗りの宿命で、それをはねのけてお釣りがくるほどの魅力を持っていると言われるのも事実である。一方、洗練された水冷911は確かに安心で非の打ち所がないほどカッコいいし速いが、空冷時代の艶かしいリアフェンダーのマッシブな曲線も捨てがたい。どうしても911の味を堪能したいのであれば、空冷を選ぶべきなのは分かっている。しかし、いつまでも「一眼レフはフィルムじゃないと」と言っているのと同じなのかもしれない。回顧主義もいいが、無条件に進歩している部分は認めたてあげてもいいのではないだろうか。
世の中が便利至上主義になればなるほど、天邪鬼の私は空冷、水冷どちらにするにしても911へ傾倒してしまう。私が培ってきたフロントエンジン車に対するノウハウでは及ばない世界に突入してしまうことになるが、それはそれで大いに楽しみなことだ。
もちろん、そんな金があればGT−RやZを買えばいいのだろうが、ノーマルに黙って乗れる私ではなく自分の好みに近づけるために、週末はパーツと工具に囲まれる生活になってしまう。そんなことを過去ずっとやってきた私であるから、大いなる楽しみなのは確かである。しかし、そろそろいい歳なので心地いい空間でたっぷりドライブを愉しむ時間を作りたい気分になっている。
国産車で、ポルシェやフェラーリをからかっていた時代もあったが、それって速さしか愉しみが見つけられなかったからなのかもしれない。
別に、ポルシェに代表される欧州者の素晴らしさをここで発表しようとしているわけではない。どちらかと言えば、こっそり愉しみたいタイプであるから、誰かがこれを読んで興味を持ち、程度のいい911をかっさらって行かれる方が困るのである。特に空冷はとっくに生産中止になっているのだから、上玉は取り合いになっている。
こんな私だから、猫も杓子も的な世界に誇る日本のT社のベストセラーカーなんてまっぴらなのだ。ただ、そんな大衆的な中でも、先日見てきたアウディS4は大衆車A4がベースなわけだが、BMWのM3に似た匂いを感じて、候補として急浮上してきた。
ベンツだポルシェだとほざいているが、別に私はリッチな車に乗ってると言われたり、狭い道で対向車が慌てて車線を受け渡す様が気に入っているわけではない。道を譲られるたびに、なぜ日本人は乗ってるクルマで立場を勝手に決めるんだと思っていた。その裏返しで、私は青信号でボーっとしている欧州者に対して、平気でボロイ国産車に乗っている時でもプップーとやってしまう。ベンツやBMWなどは確かにややこしいヤツらが乗っている確立が少しは高いかもしれないが、実際に会ってみればいいヤツばかりなのである。
そんな見栄や他人の目を意識して、このてのクルマに乗っている者も多いのだろうが、それも悪くないと思うし、スピードが出るとか、大勢乗れるとか、雪道に強いとか・・・車には色々と機能面での特徴があるが、そういうカタログ上での数字以外の部分で、どれだけ自分を満足させてくれるかが大事なのではないだろうか。