目は口ほどに・・・


ポートレートとは、肖像写真であって証明写真でも笑明写真?でもないのだ。だから、カメラ目線
でなければならないことも無いし、明るく笑っている必要もまったく無い。女性の美しさはそれだ
けでは無いのである。
どうしても、レンズを見つめてくれたり、にっこり微笑んでくれると、ついシャッターを押しがち
であるが、もっともっとモデルの美しさを探すのも楽しいものだ。

撮影会に行くと、カメラも構えずに「目線下さーぁい」とだけ叫びつづけている人がいて、その人
は目線をもらったのを確認してから、おもむろにカメラを構えるという具合なので、目線を外した
ポーズは一切興味が無いようである。
この方のポジには同じような写真が並んでいることであろう。

もともと美形であったり、自分の好みのモデルさんを撮るのであるから、どんどん可愛い表情、色
っぽい表情と発掘してみたいものだ。
ニコパチ写真で終わらせてしまうのは、あまりにも惜しいではないか。

私は横顔が好きで、右や左に回り込んでファインダー越しに観察しようとするのだが、モデルの方
が気を利かせて、こちらに目線をくれることが多い。そんな時は、せっかくの好意を尊重してシャ
ッターを2,3カット切り、その後「横顔いってみようか」と声をかけるようにしている。モデル
との潤滑剤としてのシャッターもあるってことだ。ここで、目線をくれたモデルに「いや、横を向
いてくれる?」なんて言ってるようじゃ駄目なのだ。

それから、目線と関連して、カメラの位置もとても重要な要素である。私は185cmあるので多
少背が高いモデルがハイヒールを履いても上から撮る形になるが、何も考えずにカメラを棒立ちで
構えて撮った写真は「メダカ写真」と言われあまり良いとはされない。私はカメラをモデルの肩の
高さに構える事が多い。出来るだけ目線の位置とずらす事を心がけている。だから撮影の翌日は太
股の筋肉痛になる事が多い。30cm低い位置でカメラを構えるのは結構キクのだ。

高い位置から撮ると、モデルは上目づかいになって可愛さが強調され、下から構えるとモデルは逆
に偉そうな印象になる。とにかくカメラを構える高さによってモデルのイメージは大きく変わるの
で、その辺も考えて少しでもいい表情を撮れるように努力を惜しんではいかんのだ。

また、服装や天気によってモデルの印象がこれほど変わるものかと驚いた事があった。
その時はモデルさんが地味で落ち着いた感じと、明るくて活動的な服装を用意してくれていた。
また、午前中は雨模様であり、午後からは雨があがるという天気予報であった。午前が地味目の服
で一切歯を見せて笑う事をしなかったし、目線も鋭いものだった。一転して午後は一気にはじけて
くれたのである。仕上がりを見ると予想以上に全くの別人のように見えたのだった。

写真というのは、見る側に何かを想像させるのがいいのだ。ニコパチ写真ではそうはいかない。
撮り手だけがいい気になっているように思えることが多いものだ。
その点、目線を外した写真の方が、想像力をたくましくしてしまう何かを持っているように思うの
だ。伏し目がちな目、遠くを見る目、焦点の合っていないようなうつろな目・・・

または、ハッとした時の目も、私は好きである。モデルがモデルの仕事を忘れた瞬間は、常に狙う
価値があると思っている。

逆に力のこもった圧倒されるような目も魅力的であるが、「睨んだ感じで、見つめて!」とリクエ
ストしても、なかなか思ったような熱視線を送ってくれるモデルは少ない。もっと言えば何とも言
えない雰囲気のある目を自在に作ってくれるモデルは貴重なのである。

ビデオと違い何もしゃべらない写真ではまさに「目は口ほどにモノを言う」なのだ。


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