光の角度と時間帯
一般に、撮影会といえば朝の10時から午後は3時までと相場は決まっている。
しかし、これは根本的におかしいのである。主催者側の勝手な都合であることが多いのだが、ポー
トレートを撮ることが目的であれば一番おいしい光線の状態を、みすみす逃していることになる。
そもそも、トップライトの当たる真っ昼間はポートレートには向かないのである。それは、光の角
度がいけないのである。モデルの頭の中心から前に太陽があると汚い影がいっぱい出来て顔がまだ
らになってしまう。
だから、木陰や建物の影にモデルに入ってもらい、レフで光を起こすことになる。当然カメラマン
は炎天下で汗をかくわけだ。というのも、モデルの立ち位置はちょうど日向と影の境目付近がいい
のでカメラマンは日向からの撮影になる。
秋も11月頃になれば、3時近くになり撮影会も終わりに近づいてくると太陽がかなり傾いてきて
順光でも問題なく撮影できる。かなり光り自体の力も弱まり、柔らかい感じになっている。
撮影会が始まる前や終わった後の、朝夕の光の場合はモデルにも優しいし、露出計にも優しいので
ある。その時間帯の光であれば順光での単体露出計を使った撮影でもほとんど出た目で撮ることが
可能なのだ。昼間での光ではそうはいかず、単体露出計の出た目にプラス補正が必要となる。
私が今一番使ってみたい光は、朝一番の光である。風景写真をやられている人は分かると思うが、
朝日が山の谷間から昇り、みずみずしい光が徐々に足元に近づいてくる瞬間を体験したことがある
人が何人いるだろう。
私が言いたいのは、その光を太陽の方を見て感じるのではなく。光を注がれている草木を見て感じ
取って欲しいのである。昼間とはまったくちがった美しさがある。それを表現するだけのボキャブ
ラリーを私が持っていないのが残念である。ただ言えることは地球上で一番美しい光が見れる時間
帯であるということである。同じような角度でも夕日では駄目なのである。
一度天気のいい日に早起きでもすることを、おススメしたい。ちょうどこれからはキャンプの季節
であるから、早寝早起きもいいかもしれない。その光に包まれてモーニング・コーヒーを飲む彼女
の横顔を狙っていただきたい。キラキラと産毛が輝いているはずだ。
同じ地球上に住む生物として、草木と同じく人間という動物も喜んでいるのである。
しかし、くれぐれも前の夜にビールを飲ませすぎて、目がはれたりしないようにして欲しい。
太陽の光は、昼間が写真でいう標準の色温度であり、傾いてくるとその色温度は下がる。したがっ
て写真の仕上がりは赤みを帯びたものになる。朝焼けや夕焼けやが赤いのはそのためである。
しかし、この色はタングステン球を使った時の人工的な赤みではないし、その雰囲気を活かした構
図とライティングを考えて欲しい。長く伸びた影を効果的に使うのも面白いかもしれない。
私は、真っ昼間のトップライトに近い時間帯の撮影で、逆にこの赤みを帯びた光を演出することが
あるほどこの光が好きなのだ。
それは、フィルターを使うのだが富士のシートタイプのフィルターで、マゼンタ系のCC5Mと色
温度下降用のLBA2を組み合わせて一枚にしたコンパウンド・フィルターを良く使う。
それを使うことによって、ピーカンの昼間で普通に撮ればカリッと仕上がるところだが、夕日が射
してしるような感じになる。それだけではなく、とても優しい色合いになるから不思議なものだ。
「こんなことはPhotoshopでやれば簡単ではないか」と言われそうだが、そんな考えでは
写真は絶対上手くならないのである。
それは、実際に撮影している時にモデルの表情が柔らかくなってきて、バックの色合いも含めた状
況判断によりフィルターを使うと決断するのであって、ストレートに撮った写真を後に見てから、
小細工するのとは別であり、似た結果になったとしても写真道としての過程がまったくちがうので
ある。撮影現場でのヒラメキも起こらないような余裕の無い撮影では、傑作は生まれないのだ。