理屈じゃないんだよね理屈じゃっ


私はまなちゃんに、「笑って!」と要求して撮ったことは一度だってない。笑顔は要求してそれを
撮るものではないと思っている。笑った時に笑顔を撮ればいいのであって、無理やり笑わせるのは
好きではない。

別に可笑しな事を言って笑わす必要などないと思うのである。私はそんなギャグを飛ばして笑わせ
たことも無い。でもまなちゃんはにっこり笑ってくれることがある。しかし、それは取ってつけた
ような作り笑いではないように見える。そのような空気が作れればいいのだと最近分かったのだ。
大体、まなちゃんとの『素顔のままで』は撮影会ではないのだから、まなちゃんだって作り笑いを
振りまく必要も無いわけだ。

冬の撮影ともなれば、3時を過ぎると完全に斜光線となり夕方の様相となってくる。ファッション
的な問題だけでなく。夏の撮影と大きく違うのがここなのである。だからこのような光の中では、
まなちゃんはその雰囲気に合わせた表情をくれる。だから夏の日差しの下のような笑顔とは違うの
である。

ここで斜光線の話題となったので、この場合の撮影テクニックにちょこっと触れておこうか。
水平に近い角度でオレンジ色の光を届かせている場合に限って、順光での撮影が可能だと書いたが
それは汚い影が出来ないからという理由が大きいのだが、柔らかくなったこの時間の光は硬さが無
くなると同時に、肌をいい色に染めてくれる。
そんな光が自分の顔に当たっているのを知ってか知らずか、まなちゃんはいい顔をしてくれるのだ。
それは夕方の空気感がそうさせているのか、過去に撮った写真を見て研究しているのか? それは
分からないが、私はまなちゃんにシチュエーションを説明する必要もないってことだ。
本当に手のかからないモデルである。

ところで、このような色温度の低い赤味を帯びた光での撮影であるが、ひとつ覚えておく必要があ
る。それは、昼間の光で撮る場合と同じ露出の考え方ではいけないってこと。
通常顔のシャドウ部分をスポット測光し、プラス1段程度の補正をするが、このような光の場合は
そのままでは、露出不足になってしまうのである。だからさらにもう1段上げてやってもいいほど
なのだ。それは夕陽に限らず、室内でタングステン光をメインの光源として撮影する場合も同じな
のである。
だからと言って、ばか正直にプラス補正を更に加えて撮るだけがポートレートではないのだ。

そこが難しいところでもあり、面白い部分でもある。理屈では語れない感性の域になるが、さっき
書いたように、まなちゃんはこんな光の時では表情がしっとりとしてくるのだが、その表情から受
けるイメージが露出補正を考える上で重要であると考える私としては、明るく再現してあげること
を敢えてしない場合が多いのだ。
そこが、写真学校では習えなかったり、入門書に書かれてないところであり、語るポートレートに
なるかならないかのキモの部分だと思っている。

AEB撮影を一切しない私は、露出の違う3枚のカットから、その時のシチュエーションと完全に
異なった時間と場所で後から選ぶのがどうも嫌なのである。モデルのまなちゃんと過ごしたその時
の感性で決めた露出なのだから、後で三択で選ぶものではないと思っている。誰が何と言おうと嫌
なものは嫌なのだ。

私は、まなちゃんはただ写されるだけのモデルではないように思いはじめている。それは、私が撮
影中どんな光を選んでいるかを、自然に覚えているようなのだ。
カメラのメカ的な部分やフィルムの知識などはないのだが、説明書に書かれていないようなことが
頭に入っているんじゃないかって思える時がある。
私は、まなちゃんに何故ここに立ってもらうかを説明しながら撮る場合が多いが、決して難しい表
現は使わず、分かりやすいように話す。意味もなくロケーションを決めたり光を選んでいるわけで
は無いって事で、それに納得して被写体になってくれている部分がまなちゃんにはあると思ってい
る。

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