ポートレートレンズ


最近、よく見かける話題として、85mmレンズ論がある。それもキヤノンのEFレンズにおいて
である。一般に85mmレンズはポートレートレンズと言われている。中望遠レンズのカテゴリー
に入るわけだが、28−105mmや70−200mm程度のズームレンズもこのエリアをカバー
しているが、単純に同じであるとは言えない。
描写そのものは、最近のズームはそんなに捨てたものではないのだが、大きく異なるのは開放F値
である。早い話がズームは暗いのである。明るくてもF2.8であるから、明るい大口径の単レン
ズに比べると、ボケ味が違う。

しかし、ポートレートを撮るからと言って、安直に85mmを揃えれば良いってわけではない。
大きな撮影会でしかポートレートを撮る機会がないのに85mmを持っていても、それほど使う
チャンスは巡ってこない。逆にこの場合は大口径F2.8で70−200mmクラスの望遠ズー
ムが一番便利である。
この選択基準は、モデルに対して自分が自由にポジションを変えることが出来るか否かで決定す
る。自分の足で動き回れない撮影会では、ズームでフットワークを効かすしかないのだ。
言いかえれば、同じバストアップを撮る場合に、カメラマンが足で動いてフレーミングできるか、
ズームに頼らなければいけないかである。

大口径85mm単レンズの話に戻るが、キヤノンユーザーの憧れのレンズはEF85mmF1.2
L USMであろう。ちょうどソフトボールほどの大きさとでも言うべきだろうか。大きなEFマ
ウントから、さらに膨れ上がるように太く重いレンズで、先端には赤いラインが入り、高級レンズ
であることを誇示している。私も例外なくF1.2というスペックだけで、このステイタス性充分
のレンズに憧れ、購入したのである。カメラ店でこれ下さいと言って出てきた、白いパッケージの
大きさに驚いたことも覚えている。ロウソク立てたでっかいデコレーションケーキでも入っている
のかと思えた。私はその場で「箱はいらんわ」って言ってやった。

このF1.2は「反射望遠ですか?」って聞かれるほどでかくて目立つレンズであった。優越感に
浸るには申し分ないな。その後、同じ単レンズとしてEF135mmF2Lを購入したのだが、こ
れは過去の撮影雑記にも書いているが、写りといい操作性といい絶賛に値するレンズであった。
それに比べ、85mmF1.2は・・・ ボケ味はイマイチであるし、AFのフィーリングは悪い
しで、徐々に使う気がしなくなってしまった。
50mmF1.4と135mmF2の2本で撮るのもいいが、やはり85mmは必要である。
肉眼の視野に近い50mmは、自然な距離感を得られるので重宝しているが、135mmになると
かなり望遠っぽい雰囲気になる。「おっ、いい表情だな」って見つめた感じの85mmの画角は、
どうしても捨て難いのだ。そこで、行き付けの中古カメラ店に寄った時に、何本かあったEF85
mmF1.8 USMを見せてもらった。そこのオヤジは私がF1.2を持っていることを知って
いるが、「絶対このレンズの方が便利だし、写りも良い」と抜かしやがる。また、「ほら、この絞
り羽根」といって、ウインドウからF1.2を出してきて、一番使用頻度の高い開放からちょい絞
った状態にして、絞り羽根のカタチを見せよった。確かに、これについては購入当初確認したが、
忘れていたことであったが、なんともいびつな形状をしている。こんなカタチでいいボケが得られ
るわけはないな。「このレンズは開放か、F5.6以上に絞り込む時だけ出番が来るレンズやで」

・・・とりあえず、そのF1.2を外してF1.8をつけてみることにする。軽い・・・600g
の重量差はかなりのものだ。しかし細すぎてRSのでかいボディーでは左手のサポートはしっくり
こないが、50mmレンズと同じ感覚でいいのであるから、これは慣れの問題である。
シャッターを半押ししてみると、AFの速度とレスポンスがまったく違う。USMはこれでなくっ
ちゃ! “このレンズもらうわ”って口に出すのに何のためらいも無かった。
すると、オヤジは奥から、同じ85mmF1.8を出してきて、これなら¥23000でいいと言
う。今触っていたのより1万以上安いのだ。「レンズに傷があるから」ということだが、よく見る
と確かにコーティングに薄く傷らしきものがある。このオヤジは私がコレクターではなく、道具と
して使い込むタイプであることをよく知っており、写りにまったく影響の無い傷など一切気にしな
いことを、お見通しだったのだ。ますますラッキーってことで、いい買い物させてもらった。

現在このEF85mmF1.8 USMは、現在私のメインレンズとなっているのである。
一方、赤鉢巻きのF1.2Lは、防湿庫で開放撮影と、絞り込み撮影でお呼びがかかるのをじっと
待っているのだが、なかなか出番が来ないと嘆いている。最近の出番と言えばEOS−3で作動チ
ェックしただけであり、フィルムに像を結ぶことはまだ当分なさそうである。

今後、キヤノンから私のお気に入りである135mmF2L USMの85mmF1.4L版が出
るという噂を耳にすれば、ステイタスを保っているうちにF1.2は処分されてしまう運命にある
だろう。
そして、メインレンズはF1.4に移行し、F1.8はまなちゃんにでもあげるとするか。
まなちゃんも、自分に一番多く向けられたレンズを大事にしてくれるんじゃないかな。

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