『素顔のままで』での撮影技法


ポートレートの撮影において、何を優先するのか。私の場合は言うまでもなく表情である。
次にモデルの身体の配置を含めた構図と、背景の色合いのバランス。
この色合いというか、全体のトーンは結構気にしていたりする。だから、大阪芸大での白い空間を
使った撮影などをしたわけだ。意味も無くごちゃごちゃと色が混じるのはあまり好きではない。
次が露出であるが、これについては後でゆっくり触れるが、モデルの表情やシチュエーションで変
えている。

その後に続くのが、ピントであってそれほど重要視していないと言えるかもしれない。
だから高性能なAF機を使っているとも言える。もともと、ものごころついた頃から一眼レフがあ
ってMF機を何台も使ってきたので、ピント合わせに対して何の抵抗もないのだが、ポートレート
においてはそれほどの優先順位で考えてはいないと言うことだ。しかし、これは「まなちゃんをモ
デルにした撮影で」の一言を加えた方がいいかもしれないな。

でも、度外視している訳ではなく、先にあげた項目の優先順位が高いので相対的に下位になってい
るだけである。
もちろん、ピントを合わせなければいけない部分は、その絵の主題をはっきりさせるためにも重要
であることは承知しているが、大体合わせるところは、手前の目であることがほとんどである。
難しいのは、被写界深度と、フォーカス面のバランスってことか。
元々風景を撮っていた私は、その手の撮影では「これでもか」ってほどピントにはシビアである。

ポートレートでは表情が優先であるから、いい表情をファインダーで見た瞬間にシャッターを押し
たいので、他が犠牲になることもある。オブジェ的にモデルを扱うような撮影が好きではないから、
ピントをしっかり合わせることに時間を割くこと自体、私の撮り方とは相反する。動きの中から表
情を追いかける撮影で、ピント合わせに比重を置くことなど出来るわけはない。
考え方を変えれば、ファインダー内のまなちゃんに対して、常にピントを送り続けてフレーミング
しながら、表情を追っているので、ピントが第一ってことが言えるのかもしれない。

面白いことに、ファインダー内で見たまなちゃんの方が、表情の微妙な動きが良く分かるのだ。
それは狭く限られたフレームの中であるから、回りのごちゃごちゃが目に入らないことと、ピント
をまなちゃんの顔に合わせているので、フレーム内にあってもフォーカス面から外れた距離にある
物はボケていることとなり、まなちゃんだけに集中できるのである。

露出に関しては、ここを見に来る人が一番興味を持っていることだろう。実際、露出に関して書か
れた解説書がよく売れているようだ。
しかし、その手のほとんどの解説書では、情報不足であり、微妙な露出コントロールを身につける
ことは出来ないと思っている。
一番カメラごとの癖がないのがスポット測光だと思うが、それについても何処を測光したかが、示
されていないことが多いのだ。また、測光した部分が分かっても、その部分に当てっている光りの
種類やテカリ具合で露出値が変ることは書かれていない。
だから、自分でいろいろやってみるしか方法はないってことだ。

今回の『素顔のままで』第10弾ではすべてスポット測光で撮っている。
補正値は実効感度が低いベルビアが+1・2/3で、それ以外のプロビア100とダイナ100Hi
-Colorが+1・1/3であり、その値は私の露出決定の基本値である。そして今回はすべてこ
の補正値で撮っている。
えぇー?っと、意外に思った人は、よーく写真を見てくれていたということだろう。

それぞれのシチュエーションで露出が明らかに違うことに気がついていた人もいたはずである。
Part1で見せたまなちゃんの部屋でのカットは、全体を通してハイキー調で構成しているし、
河原でのカットはハイキーから、ちょい渋目まで取り混ぜてある。最後の線路の上のカットになる
と、かなり切りつめた露出になっている。
それは、その時の状況に応じて、露出を変えているからである。

部屋でのカットなどは、まなちゃんの表情を見てもらえれば分かると思うが、その時の空気感から
ハイキーにしたいと思ったので、あのような肌色がギリギリ残る程度にオーバー目に撮った。
一方、線路でのカットは夕陽を背に受けたまなちゃんが、すごくドラマチックに見えたので、逆に
あのような表現にしたのである。
また、細かく分けるとワンポーズ事に、その時のまなちゃんを見た時の感覚で、露出を切り替えて
いるのだ。

さて、実際に私がどうやってこの露出コントロールをしているかだが、それを知りたがっている人
からの質問メールも多いので、それに答える意味で、少し書いてみることにする。
E0S−3にセットした補正値は共通であるから、スポット測光を使っている私としては、測光場
所を変えることが露出値を変化させるひとつの手段なのである。
だからフラットな光りが当っている場合、頬のシャドウ部分を測光すれば部屋で撮ったような描写
になるが、シャドウと言ってもハイライト部分が完全に飛んでしまわない露出値を得るためには、
どこで測ればいいか経験で覚えるしかないのである。
測光インジケーターを使って測り回ることをやっていたら、いい表情は取り逃がすことになる。

次は、その測光場所に当っている光の色温度である。夕方などはかなり色温度が下がるのでそれに
応じてアンダーに露出計は表示される。昼光の時と同じだけの明るさにするには、更にプラス補正
が必要であるが、雰囲気としてはなりゆきのアンダー気味のままでOKと言えよう。
このアンダーを分かってやっているか、結果オーライなのかがポイントだけど。
線路での撮影のシチュエーションでは、オーバー気味にしてしまっては、雰囲気丸潰れってことだ。
しかし、あの時はその色温度の低下分以上にアンダーにしたかったのだが、露出補正に関してはい
じっていないのである。それは半逆光の強烈な光りがテカリとしてあったので、それを拾って更に
アンダーになると予想したからである。これを計算に入れずに、プラス補正を解除してしまったり
すると、どアンダーになっていたわけだ。

他に、測光場所で露出をコントロールするためには、髪の毛の部分を含めて測光する場合もある。
これをやると更に一段以上オーバーになって、完全なハイキー調になるわけだ。
この逆に、ハイライト部分を測光エリアに加えればアンダー側に転ぶ。
このハイライトについては、面積にそれほど関係なく反応することがあるので注意が必要だ。
これを、私は測光インジケーターなど確認せずに、目の前のまなちゃんを見て即座にやっているわ
けで、いちいち露出補正の値を変えているのではないのだ。そんなかったるいことしてられないの
で、一定の補正値に決めておき、測光場所の変化でコントロールしていることになる。
この方法で、最近はほぼ100%思い通りの露出を得られるようになっている。
これで、いつまなちゃんが最高の表情をくれても、それに一番マッチした露出を与えてやることが
できるのだ。それで彼女の表情が更に演出できれば・・・ということである。

この素早い露出決定方法を使う理由は、優先順位が第一番目の表情を逃さないためであり、ピント
合わせもAFを上手く使って、チャンスを逃さないようにしている。
これで、まなちゃんが自由に動けるのだから、私としてはこの撮り方をもっと完成させるつもりだ。

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