『素顔のままで』第16弾その3


その2では、森の道での撮影について書いた。その後近くのキャンプ場に行ったが、そこにはかな
りの残雪が残っていた。雨は相変わらず降ったりやんだりで、空はどんよりと鉛色である。
そこでは、残雪の白とまなちゃんの着ているダッフルコートの白を利用して、ソフトフィルターで
ハレーション気味に演出してみることにした。
元々、そういった撮影をあまりしてこなかった私であるが、これからはちょくちょく使ってみるつ
もりだ。

その後は、小さな栗が転がっていたのでそこで少し撮ったが、寒そうにしているまなちゃんを見て
ると、この場所でこれ以上撮影を続ける気が失せてしまい、早々に少しは暖かいであろう南に向か
って走ったのである。
目的地は庄原の七塚原高原牧場であるが、途中で川の横の農道の雰囲気がよかったので、急遽そこ
で撮影する事にした。私がいつものようにトランクから機材を出している間に、まなちゃんはハイ
ネックのセーターに着替えを済ませてくれている。

ここでは雨も上がって雲も薄くなっており、順光を選んでレフもストロボも無しでの撮影である。
曇り空だから出来ることではあるが、こういう手軽な撮影の場合、それなりに動きがある撮影をし
なければもったいない。
だから、ここでもまなちゃんにはその農道を後ずさりするような格好で動いてもらった。今度は、
森の中の道のシーンとは違った動きをしてくれるまなちゃんであるが、こう言う撮影も本当に上手
くこなしてくれるようになったと、私は撮りながら感じていたのである。
専門的なレッスンを受けたモデルより、よっぽど上手いのだから、習えばいいってもんじゃない。
その農道の脇には柿の木があって、シブガキがたくさんなっていたが、子供の頃のまなちゃんが、
痛い目に遭っていたのは言うまでもない。

その場所を後にし、目指すは牧場ってことでしばらくのドライブであるが、時より日が射すように
なってきて、なんとか雨に降られずに撮影できそうであった。
買い物などをしたりしながら到着した牧場は、初夏の頃とはまったく雰囲気が異なっていて、前回
とはまた違った良さを感じた。

広大な敷地をクルマで走り回ってみると、子供の乳牛が牛舎から出て退屈そうにごろ寝をしている
のが見えた。せっかく来たのだから、牛とまなちゃんを撮りたくなるのは当然のことだ。
それに、まなちゃんにとって牛は可愛いペットのようなものであり、怖がることもなければ触る事
をためらうこともあり得ない。それは、先日お邪魔した実家の方でも牛を飼っていて、子供の頃か
ら慣れ親しんでいるからなのである。

ここでの撮影でも、28−135のISレンズを使っており、望遠であっても多少絞って牧場らし
いバックも入れたかったし、バックをボカすだけが偉いわけではないと最近感じているので、こう
言う撮影には持ってこいなのである。大口径レンズとの使い分けをすることで、このレンズはかな
り今後も活躍することが予想されるぞ。今の私にとってF2.8の大口径標準ズームよりも使い道
が多くなりそうだ。
ここで、誤解をしないで欲しいのは、バックを取り入れた撮影でも、観光写真にするつもりは毛頭
ないのだ。その場の雰囲気から浮いてしまうことなく、上手くその空気と一体感が出せれば、それ
は観光写真なんかではない。極端な話、牛をバックにVサインやハイ!チーズと同レベルの決まり
きったポーズの写真をよく見かけるが、そうはしたくないのだ。
大口径レンズを持ってないから、いい写真が撮れないと御嘆きの貴兄に希望を与えてやろうではな
いか。

ということで、ここで着替えが入るのだが、メインは先日買った私のコートである。独軍のデット
ストックなのだが、私に合わせたサイズなのでかなり大きい。撮影前日に着せてみたら、どうも・
・・??なのである。私が抱いていたイメージとどこかが違うのである。
買うときも、私が着ることより、まなちゃんに着せればどうなるかをイメージしていた私としては
「こんなはずではなかったのに・・・」だったのである。しかし、その疑問はすぐに解決した。

まなちゃんに、寒い思いをさせたくないという一心で、それまで外していた内ボアを取り付けたの
がいけなかったのだ。そのボアたるや袖の中からフードまで一体になったもので保温性はバッチリ
なのだが、それを付けたままでまなちゃんに着せると、鎧をつけたようになってしまうのだ。
インナーをいくらアレンジしてそれは解決できなかったが、その内ボアを外した途端に、大きなコ
ートの中で細いまなちゃんの身体が泳ぐような感じが出てきた。
それに、ぴったりのサイズでないのがいいし、袖を余らせているところに可愛さも残る。
もちろん、少し寒くなるけど、我慢できるか?と確認している。答えは分かっているんだけどね。

着こなし自体は、心配しなくてもまなちゃんにまかせてOKということも分ったし、私としては、
牧場でそのロケーションにどうやって溶け込ませるかを考えるだけなのだが、それは現地で実際に
その場に立って判断する事にしたのである。それにをするには、撮影前日の衣装合わせは非常に大
事なのである。

この時に履いている黒いパンツも、同じ黒で素材や質感が違うものを3着実際にはいてもらった結
果、このカラージーンズに決めているし、そういうことをしながら、その時のファッションのイメ
ージを私なりに掴んでいくのである。
そのイメージを元にして、ロケーションやシチュエーションを決めているし、実際にまなちゃんに
着替えのタイミングや、どのパターンで行くかを指示している。
どこかの撮影会みたいに、午前がAパターンで午後がBパターンなんて、単純なものではないこと
は、『素顔のままで』を見てくれている人の中には分ってくれている人がいるかもしれない。

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